『うみべの女の子』発売記念! 浅野いにお インタビュー

浅野いにおが、身勝手で切実な中学生の青春模様を描いた最新作『うみべの女の子』がついに発売。『ソラニン』『おやすみプンプン』とヒット作を連発するマンガ家・浅野いにおが本作で挑んだ、新しい地平とは――。その誕生秘話に迫る!

文=編集部

2011年4月19日公開

ゴールから始まって、スタート地点に戻る話

―――担当編集がインタビューするのでちょっと話しにくいところもあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。『うみべの女の子』は、2009年7月発売の『エフ』で連載開始していただきました。

浅野 ええ、2年前。2009年のお正月ぐらいに、ネームをやり出して。その段階では、海の近くにあるちょっと田舎の町っていう設定は決まってたんで、写真を撮りに行ったのが、千葉県の袖ヶ浦と、神奈川の横須賀の先の方まで。基本的にはそこの写真をメインに使ってるんですけど、1日で撮ってきた写真なので量はそんなになくて。しかも、海の写真って撮っても縮尺がわかんないから使いづらくて。海、広すぎて。

―――なるほど(笑)。

浅野 だからその後、ちょっと遠出したときに海の近くだったら写真撮ってきて、みたいな感じで、結構混ざっちゃってるんですよね。茨城の大洗海岸とか。だからはっきりどこの町っていうのは決まってなくて、関東近郊の海の近くの町っていうイメージで描いていますね。最初はもうちょっとド田舎のイメージだったんですけど、いつの間にかそんなに田舎でもなくなって。ほんとのド田舎を背景で描こうとすると、モノがなさすぎて描きようがないんですよね。畑だらけとか、田んぼだらけになっちゃうんで。

―――一番最初は、「方言もいいね」っていう話をしたのを覚えてます。

浅野 そうなんですよね。ただ、台詞を方言に直してもらうのがめんどくさいって、なあなあになっちゃったんですけど。そもそも最初に(『エフ』から)話をもらったときに、もう『プンプン』を連載していて。

―――2008年の秋ぐらいに、久しぶりに浅野さんにお会いして、描いていただきたいってお話をして。

浅野 そうですね。僕は『プンプン』が始まったばっかりで、まだ評価も定まってないような状態だったので、余裕はなかったんですけど、まあ『プンプン』でやれることっていうのがなんとなく見えてきたりしてて。週刊誌ではできないものがあるんだなっていうのをちょっと感じてきてた段階だったんですよ。そのひとつがエロ表現で。やっぱり描きすぎると、担当者があんまり良い顔しないっていうのをすごい感じてて、ダメなんだなって。それと、ちょうどその頃プンプンが中学生ぐらいだったと思うんですけど、僕のイメージする中学生像っていうのがあんまり描き切れなかったっていうのがあったんですよね。だから新しくやるとしたら、『プンプン』とはまた別の感じの、中学生の恋愛みたいなものをやってみたい、もうちょっとスタンダードな話もいいなあと思ってたんですよね。ただ、最初に打ち合わせをしたときは、たぶん覚えてると思いますけど、普通のもじもじした男女の中学生の話。

―――でしたよね?

浅野 なんですよね。ほんっとに中学生らしく、もじもじをずーっと描いて、最終的にセックスするところまできっちり描いたら面白いんじゃないかっていうのが最初の着想だったんです。なんですけど、実際ネームをやり出して、その導入……もじもじした感じで始まるつもりだったんですが、それを描いてるときのものすごいつまんなさっていうのが。

―――(笑)。

浅野 なんて退屈なんだと。実際の中学生だったらそれが一番楽しいんだろうっていうのはわかるんですけど、描く側にとっては、すごくつまらなくて。僕が大人になってしまったせいで、なんかもうじれったくて、描いてられない。最初は、ずっともじもじした末の一度のセックスっていうのが、ものすごくエロいんじゃないかなと思ってたんですけど。どうもそれだと1話目のフックが弱すぎて。取っ掛かりがなさすぎるなと思って。出会って、主人公が恋に落ちてみたいな……俺あんまりそういう性格じゃないんだなっていうのがすごくよくわかって(笑)。

―――ご自分の体験が。

浅野 はい。ちゃんと恋愛を育んでいくみたいな経験を確かにしてないなっていう。最初っからもうやる気満々みたいな感じで始まるし。中学生の頃なんて、完全に一目惚れでものすごい勘違いの状態から始まっていくような男なんですよ。だから、自分がほんとに知らないことは描けないっていうのと、人が作ったそういう話は良いですけど、自分が描く話じゃいなっていうのがわかったんですよね。それで、とにかくネームをやり始めたら、セリフの流れで、もう既に最初に(小梅と磯辺が)ヤってるって状態になっちゃったんですよ。なっちゃったって感じなんですね。だから、むしろまったく逆、ゴールからのスタートみたいになっちゃった。

―――それは面白いと思いました。

浅野 見切り発車で始まったんですけど。でも結果として、最初のもじもじの話よりも、より明確にこういう話って説明しやすくなったんですよ。ゴールから始まって、最終的にもともとやろうと思ってたスタート地点に戻っていく話なんですよね。つまり、セックスから始まり、最終的に告白で終わるっていう、真逆になった。

―――そういうことなんだなって、構造が見えたときに痺れました。

浅野 そういう仕組みがわかると僕も描きやすいんですよね。それに沿えばいいかって。ぼやっとストーリーを進めていけるタイプじゃないんで。

うみべの女の子
うみべの女の子

著者:浅野いにお
発行:太田出版
発売日:2011.03
価格:680円+税

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海辺の町に暮らす中学生・小梅。小梅に思いを寄せる磯辺。思いよりも先に身体を重ねてしまった二人。秘密の時間を過ごせば過ごすほど、心の距離は遠ざかっていく。

  • プロフィール
浅野いにお INIO ASANO

1980年生まれ。茨城県出身。2000年、『ビッグコミックスピリッツ増刊Manpuku!』掲載の読み切り作品『普通の日』でデビュー。以後、リアリティ溢れる若者像の描写とポップな絵柄で、多くの読者の支持を集める。著書『ソラニン』は2010年映画化もされ、大ヒット。現在は、『スピリッツ』にて『おやすみプンプン』、『マンガ・エロティクス・エフ』にて『うみべの女の子』を連載中。