『フキンシンちゃん』連載開始記念! 長嶋有『コミPo!』を語る!!

芥川賞作家・長嶋有による、マンガ制作ソフト『コミPo!』を使用して描かれた前代未聞の「マンガ連載」、題して『フキンシンちゃん』が4月22日、「ぽこぽこ」にてスタート! 連載開始を記念して、マンガへの思いを語ってもらいました! 『フキンシンちゃん』誕生秘話も出し惜しみせずに公開しちゃいます!

文=編集部

2011年4月20日公開

『コミPo!』は思考を促すツール

―――『コミPo!』は去年の12月に発売された、パソコンでマンガを作成できるソフトで、マンガ界の『初音ミク』とも言うべき、画期的なものです。長嶋さんには実際に『コミPo!』を使ってマンガを描いていただいたわけですが、まずは『コミPo!』を使った率直な感想からお聞かせください。

長嶋 一言で言えば、面白かった。無数のパーツの集合でマンガができているということをこれほど端的に見せられたのは初めてで、普通のマンガを読むとおかしな気持ちになる気がした。個々のパーツそのもの、見慣れているものの意味を1個1個考えさせられるというか。部品が動いてるときは部品そのものを意識しないけど、分解してみたときに、この歯車がこう動くからこうなのかと。単にマンガが描けるツールというより、思考を促すツールのような気がして、マンガIQが高くなった(笑)。
 逆に言うと「便利」とは思わなかったな。マンガツールとして考えると、善し悪しがある。パッケージソフトとしてこれが1万円弱というのは面白いし、適正な値段だと今は思うけど、入り口辺りのとっつきが必ずしも良くない気がする。実際自分も腰が重かった。フォトショップとかイラストレーターにある程度精通していないと、最初手も足も出ない。レイヤーの概念とか分かってないと、完成前にめげちゃう気がする。実際めげてた。締切が近いというときに、友達のデザイナーが家に遊びに来て、それで「二人羽織」を思いついた(笑)。僕が後ろから指示を出して操作してもらって。彼女が言うには、フォトショップと違うけどこうか、と、見よう見まねができるらしい。
 もうひとつ思ったのは、絵が描けない人も簡単にマンガが描けるというのはやや誇大広告だということ。キャラクターは配置できるけど、立体感が分からない人は変な絵になるでしょ。パースが分からないと、置いたキャラクター同士が正確な位置に気持ち良く描けない。でも、描いてると正しい立体感でちゃんと描きたくなる。それに純粋にパーツ量の問題で、歯がゆい問題も多かったな。どっかで妥協していかなきゃいけない。

―――歯がゆく思った点、妥協した点というのは?

長嶋 萌えマンガのボケみたいな表情は、マンガの言語として日が浅い感じがしたな。もっとオールドスクールな表情も欲しい。最近のテレビゲームだと3次元のデータを、バーを動かすだけでいじれたりするので、プリセットじゃない部分で、体型とかいじれると良いと思います。
 表情が何十種類か入っているんだけど、似た表情が多くて不満ですね。そのマンガの中の時間を生きたときしかしない表情をしてみせないと、マンガ家がキャラクターを生み出した意味が出てこない。膨大な記号の集積でマンガができていると分かったのと同時に、そのマンガが長く残るというのは、その人間が、他の瞬間にはその表情をしないという、記号ではない唯一の表情をそのときだけ描けるからだと分かった。ただ、最近アップデートされて、表情がけっこう増えた。やはり大事なところだから、微妙な表情まで入れてきてますよね。もっと増えてほしいです。人相の異なるタイプもできたのは助かります。

―――実際に作業していくうちに分かったこともあると思います。

長嶋 うん。フキダシとか、文字を置くとか、そういうことで他の部分をフォローできる。このマークはそういう理由でマンガ界に生み出されたのかって思う。マンガの効用が分かってくる。ただでさえ、モノクロだったり2次元だったりするので、実写ではない制約の多いメディアだったわけで、当然工夫の蓄積があるんでしょう。たとえば、残像のように顔を2つ描くというのがありますよね。『コミPo!』だとリアルすぎてそれができない。裏技でできるらしいけど、それはやらなかったです。あと、ソフト側で消しゴムツールとかペンツールを入れてないというのは徹底している。ツールとしての迷いが、設計者には全くない。
 「長嶋有漫画化計画」でいろんなマンガ家さんが僕の小説をマンガにするのに立ち会っているんだけど、よしもとよしともさん(「噛みながら」をマンガ化)は、ある1コマを1日何十回も描き直したそうです。それはもちろん、ある瞬間の1コマの話で、パパッと描くところはパパッと描く。でも、クライマックスの、複雑で微妙な表情があって、本人が納得いくまでその表情を描いていた。それがすごい印象に残ってる。プロだから1回でうまく描けるかというと、そんなことはないんだと。

―――『コミPo!』の素材しか使わないことで、大分制限があったと思いますが……。

長嶋 無限に素材を持ち込むと、『コミPo!』の価値がなくなるとも言える。単純にマンガを描くのであれば、そんなに『コミPo!』にこだわらなくて良いので。『コミPo!』は学園が舞台として用意されているんだけど、マンガの世界を豊かに描くときに、学園の中ということの制限が、物語が立体的になることを疎外してしまうんですよ。たとえば自宅を用意したり、どうしてもそのリアリティは必要になる。というのも、教室とか住宅街の絵が妙に写実的なものだから、そこだけ急にぺったりしたものにできなかった。

コミPo!
コミPo!

発売:ウェブテクノロジ・コム
発売日:2010.12
機種:Windows
価格:9,239円+税

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  • プロフィール
長嶋 有 YU NAGASHIMA

1972年生まれ、小説家。2002年『猛スピードで母は』で芥川賞、2007年『夕子ちゃんの近道』で第1回大江健三郎賞を受賞。最新作は初の短編集『祝福』。自身の作品をコミカライズする「長嶋有漫画化計画」が進行中であり、コラムニスト「ブルボン小林」としても漫画評を週刊誌に連載している。