中村佑介、佐々木マキを語る 音楽のような、詩のようなマンガ

1960年代、『ガロ』で鮮烈なデビューをはたした伝説のマンガ家にして、絵本作家・イラストレーターの佐々木マキさん。2000年代に私たちの前に閃光のように姿を現し、イラストレーションの現在を牽引する中村佑介さん。若い世代を代表するイラストレーターの中村さんから、佐々木マキさんの作品はどんな風に見えているんだろう? 今回、佐々木マキさんの『うみべのまち 佐々木マキのマンガ1967-81』の刊行を記念して、中村佑介さんに本書の魅力・読みどころを語ってもらいました!!
さらに、中村さんのオススメする『うみべのまち』収録作品も無料公開しちゃいます!!

写真・文=小原央明 イラスト=佐々木マキ

2011年6月22日公開

本当の子どもの目線のマンガ

――中村さんは若い世代を代表するイラストレーターといってもよいのではないかと思いますが、佐々木マキさんも絵本作家・イラストレーターとして長年第一線で活躍されてきた作家さんです。今回、佐々木さんの初期のマンガを集めた『うみべのまち』という作品集を出すにあたって、中村さんはこの本をどう受けとめられたのか、率直にお話を聞いてみたいって思ったんですけど。

中村 実は、僕は佐々木マキさんの『ガロ』時代のマンガというのは、これまでに読んだことがなくて、今回がはじめてだったんです。すごくサイケデリックな作風で、これを読むと佐々木さんが音楽が好きだというのが端々から伝わってきて、読み終わるまで音楽を聴いていたのかと錯覚してしまうほど、夢中な気持ちになりました。やっぱり、当時からイラストとしての力がすごいです。1コマ1コマが1枚の作品としても成立しています。そのように僕はイラストレーターなので、けっこうイラストに注目して読んだんですけど、この本を1冊の「イラスト集」でもあると考えると、ものすごく膨大な作品数で凝縮されている。それだけにマンガという文脈から離れたところにあったのかもしれませんが、だからこそこれまでに類を見ない程、ぎゅっとした1冊です。
 それと、この作品集を読んでいて感じたのは、佐々木さんのマンガは世界観というか、作者の目線が完全に子どもだということです。マンガの中に大人を描いていても、それを見ている佐々木さんの目線が子どもなんですよ。

――目線が子どもというのはどういうことですか?

中村 この作品集に流れている世界観は、残酷なんだけどすごく純粋というか……。例えば、「いつまでも少年のように」という一般的な表現ってありますよね。でも実際にはそんなことはあるはずなくて、あくまでそれっぽく振る舞う、もしくは振る舞えるだけなんです。そういう少年性というのは「大人が思い描く子ども」なんですよ。僕は森雅之さんがすごく好きなんですけど、森さんのマンガもやっぱりどこか「大人の目線の子ども」です。藤子・F・不二雄先生も同じ印象があります。だから、この当時の佐々木さんの子どもの感性、本当に自由な感性というのは誰にも真似できないものだと驚きました。
 大人が思い描く青春像とか子ども像って、だいたい明るいことばかりなんですよ。だけど実際の子どもっていうのは、佐々木さんのマンガみたいにすごく残酷だし、それでいてすごく楽しいし、寂しいし、無敵だし、でもすごく悲しくて……。だから、もし天才的に絵の上手い4歳児とかがいて突然マンガを描いたりしたら、きっとこんな作品を描くんだろうなって思うんです。

――そう考えると、あの手書きのタイポグラフィもそんな感じがしますね。セリフが意味として理解されるよりも前に、そもそも「かたち」として面白いというというか……。

中村 そうですね。もともとマンガはディフォルメというか、記号的にどれだけ単純化するのか、という要素が強いですよね。例えば、背景のビルを描くにも「ビル」だとわかったらそれでいい、という風に。でも佐々木さんのマンガは、本来脇役であるはずのビルとか背景とかが、ぜんぜん脇役になっていないんです。全部が主役になっているっていうか。自分が見たものがそれぞれに主役になってしまうというのは子どもの目線ですよね。

――それはとても面白いですね。たしかに佐々木さんは、画面に遠近法的なパースペクティブがないというか、地と図とか、背景と人物とかの区別が明確ではないような描き方をしていますよね。人もモノもどっちも等価で、全部主人公だっていうことなんですね。

中村 そんな印象ですね。例えば佐々木さんのマンガでは同じ人間を描いていても人物の縮尺がコマごとにまったく違っていたりします。そこにはあまり人間に対する執着を感じさせないというか、人もモノも区別しないような自由な目線が感じられます。それを「これは子どもの目線だ!」って思うんですよ。

うみべのまち 佐々木マキのマンガ1967-81

うみべのまち
佐々木マキのマンガ1967-81

著者:佐々木マキ
発行:太田出版
発売日:2011.06.23
価格:2850円+税

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60年代~80年代のアタマにかけて発表した前衛的マンガ作品の数々を自選で集成した、奇蹟の復刻版が刊行。総計400ページ超。佐々木マキのナンセンス世界にようこそ!

ぶたのたね
ぶたのたね

著者:佐々木マキ
発行:絵本館
発売日:1989.10
価格:1,200円+税

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不滅のロングセラー絵本! 足の遅いおおかみが、どうしてもぶたをつかまえたくて、きつね博士から「ぶたのたね」を手に入れます。せっせとたねを育てます。さてどうなる?

BLUE 中村佑介画集

BLUE
中村佑介画集

著者:中村佑介
発行:飛鳥新社
発売日:2009.08.11
価格:3,800円+税

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「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のCDジャケットや『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦)、赤川次郎ベストセレクションの文庫カバーで知られる人気イラストレーター中村佑介の初作品集。

  • プロフィール
なかむらゆうすけ YUSUKE NAKAMURA

1978年宝塚生まれ。2000年大阪芸術大学デザイン学科。同コース助手を務めた後、2002年からフリーランスに。ASIAN KUNG-FU GENERATIONをはじめとしたCDジャケットや、森見登美彦や東川篤哉など書籍カバーも数多く手がけるイラストレーター。作品集『Blue』(飛鳥新社刊)は画集では異例の8万部を突破。また9月25日にミニアルバム『Pink』を発売するセイルズとして音楽活動や、エッセイ、マンガなど表現方法は幅広い。